【書評】『どうしても生きてる』の感想

朝井リョウの作品『どうしても生きてる』

まずは作品の紹介。

『どうしても生きている』は朝井リョウの小説で、短編集の形式をとっています。

朝井リョウと言えば『桐島、部活やめるってよ』とか『何者』とかで有名ですが、amazonの書籍紹介では「著者の最高到達点」とまで今作は言わしめています。

題名では少し暗そうで、なんか自殺でも考えてる主人公の話なのかなーって感じですよね。

確かに明るい内容の話ではないですが、そういう『人間失格』的な話は無いです。

文学的な深みを持ちつつも、すらすらと読んでいける、個人的にはそんな印象です。

短編集でそれぞれにも、そして全体でも何かオチがあるわけでもないですが、心に突き刺さる何かがある。

では、もう少しこの本を詳しく見ていきましょう。

あらすじと感想

この小説は6つの話からなっています。

先にお伝えした通り、それぞれの話に特に関連性はなく独立した内容となっています。

なので1つずつ見ていきましょう。

健やかな論理

シンプルながら独特なタイトルですね。

恋人ができたら幸せな人生を送れるとか、死にたいから死ぬとか。物事には明確な原因と結果があり、それが当然と思っている人たち。

そんな人たちと共感できない主人公の生き辛さのようなものを描いた物語です。

感想

この作品、なかなか共感できる人は多いんじゃないでしょうか。

なんか勝手に決めつけてくる人っていますよね。

この人の頭の中ではそんなに物事がシンプルに動いてるんだなーって感動するような。

そんな複雑な心境を見事に描きだした作品。

たとえなんかも分かりやすくて、すごい惹きつけられました。

流転

漫画家という夢への挫折。

共に漫画家を目指す友人との亀裂。

就職した保険会社でのわだかまり。

起業を誘われた同僚への裏切り。

漫画家を共に目指した漫画家の成功。

妊娠中絶と妻との確執。

日々移ろいゆく中で、選択が正しかったのか間違っていたのか、常に悩み続ける主人公の物語。

感想

実際に本を読んでみるとわかりますが、基本主人公はダメ人間です。

何がダメかっていうと、言い訳ばかり。

でも、その生々しさがこの作品をいいところだと思っています。

世の中の物語って成功する物語が多いですが、成功しないだけでなく言い訳ばかりの主人公。

そのダークさが面白いです。

七分二十四秒めへ

主人公の女性は非正規雇用。

自分の先輩がそうであったように、突如切られるクビ。

ビューティー系のYouTubeを見る器用な新人と、炎上YouTubeの動画を見ながらラーメンをバカ食いするクビになった主人公。

そんな主人公と周囲の変化・対比を描いた物語。

感想

この物語はなんといえばいいんでしょうか。

正直、一言で言い表すのが難しい複雑さがあります。

今はやりのYouTubeを題材にとっていますが、バカな動画を見ている人間がバカな人生を送って人間とは限らない。

人間のどうしようもなさ、みたいなものが本全体のテーマに取られていますが、バカバカしさに救いを求めるどうしようもなさ、みたいなものが描かれてるのかなって個人的に感じました。

風が吹いたとて

「誰かが破ったルールの上を、快適に歩いている」。

でもそれは仕方のないこと。

だって、やらなければいけないことは半径5メートル以内にあふれているのだから。

そんな自分の考えとかけ離れた正義感の強い夫との主人公の生活を描いた物語。

感想

自分の目の前にやらないといけないことがあるんだから、関係ない人の面倒なんて見てられない。自分には関係ない。

これってある意味人間の本質なのかなって感じましたね。

人って程度の差はあれみんな基本的には自己中心的で、自分が良ければ他の人は割とどうでもいい。

間違ったことをしている人を知っていても、見て見ぬふり。

なんかそんな人間の本質みたいなものが描かれている気がしました。

そんなの痛いに決まってる。

無駄なプライドを持ち続ける主人公は、自分より成功を収める嫁との関係性が上手くいかなくなる。

かつてやめた会社の尊敬していた上司は、Mの風俗の動画が流失してクビになっていた。

すっと本音を言う、それができず苦しむ主人公の物語。

感想

この本で一番お気に入りの物語。

すごい納得してしまったんですよね。

幼ければ幼いほど、思ったことそのまま言えるじゃないですか。

でも成長するとそうはいかなくなります。

言いたいけど、言えない。

それって多くの大人が抱える悩みじゃないでしょうか。

そこにSM嬢を持ってくるのが見事としか言いようがありません。

正直自分も、Mな人って痛いのが好きなのかなって思ってたんですけど、痛いって言えることがうれしいっていうのはすごい納得しました。

とくに日本人って感情をあまり表に出さないので、こういう気持ちをストレートに口に出すってなかなか難しいんじゃないかと思います。

別に私だって、望んでない。

でもどうしようもないじゃない。

自分の意見が通るような人と、そうでない人間。

そうでない人間だった主人公の苦しみを描いた物語。

感想

どうしようもないの代表、くじ。

物語では実際にくじがでてくるわけではありません。

ただ、休みを急遽取った従業員の代わりに急遽シフトに入ったら、震災にあってしまう。

自分だって被災者なのに、なんなら妊娠してるのに、客を助ける立場にならなければならない。

挙句、生まれてくる息子には障害があると発覚。

世間でいうところの「ハズレくじ」。

そんなこと望んでないけど、どうしようもない。

そんな苦しみがとても共感できます。

終わりに

いかがでしょうか。

正直、伝え足りていないことはたくさんあります。

でも本当に価値観みたいなものを見つめなおさせる良い内容になっています。

是非読んでみてほしいです。